対数関数について

z0でない複素数とするとき,

z = \exp{w}

を満たす複素数wzの対数と呼びますね.では

\log{z}

とは何でしょうか.例えば\log{(-1)}を,多くの?本や講義では

\log{(-1)} := i (1 + 2 n) \pi, \quad (n \in \mathbf{Z})  

などとわけわからん定義をしています.(いや僕が読み間違えているだけかもしれませんが,そのような場合は「お前はここを誤解している」とコメントで教えてください.)

 

しかし,このような不定形では数学の対象になり得ないでしょう!しかも上の定義だと等号の乱用を招いてしまいます.

i \pi = \log{(-1)} = i 3 \pi

な訳がありません.まあ\mod{2 \pi i}なら正しいというわけですが,非常に気持ちが悪い.僕は\log{z}

\{\, w \in \mathbf{C}\, |\quad z = \exp{w}\, \}

とするのがベターだと考えています.正式に現代的な(集合論的な)流儀で書き直すと

\log := \{\, x\, |\quad \exists z \in \mathbf{C}\, \exists y\, \left(\, x=(z,y) \wedge \forall t\, (\, t \in y \Longleftrightarrow t \in \mathbf{C} \wedge z = \exp{t}\, )\, \right)\, \}

により\logを定めることになりますが,この\log\mathbf{C}上の写像でありますし,値の意味も明確ですね.

 

この形式の定義はあまり見かけない,というか,僕の思考史においては僕オリジナルの定義なのですが,別にプロから怒られるような勝手な定義ではないことを,ブルバキのメンバーHenri Cartanが著書「複素関数論」を盾に弁解しておきましょう.

 

Cartanの説明を大雑把に書きましょう.いま

U := \{\, z \in \mathbf{C}\, |\quad |z| = 1\, \}

とおきます.そして\varphi

\mathbf{R} \ni y \longmapsto e^{i y}

なる写像とすると,\varphiは群(\mathbf{R},+)から群(U,\cdot)への準同型であり,その核は

\{\, 2 n \pi\, |\quad n \in \mathbf{Z}\, \}

 に一致します.ちなみに\varphi全射であり,これらの証明は

amateurmath.hatenablog.com

 のノートの周期性の節に載せてあります.その核を

2\pi \mathbf{Z}

と書くと,代数学の同型定理により商\mathbf{R}/2\pi \mathbf{Z}からUへの全単射(これを\psiとおく)が得られます.z0でない複素数とするとき,z偏角を 

\arg{z} := \psi^{-1}(z/|z|)

により定めます.すなわち,

{\displaystyle \varphi(y) = \frac{z}{|z|}}

を満たす実数yを取れば

\arg{z} = \{\, x \in \mathbf{R}\, |\quad \exists n \in \mathbf{Z}\, (\, x - y = 2n\pi\, )\, \}

が成り立つわけです.つまりCartanは\arg{z}を数の集合として定めているのですね.Cartanは\log{z}

\log{|z|} + i \arg{z}

により定めていて,この部分は僕にとっては釈然としないのですが意味としては

\{\, w \in \mathbf{C}\, |\quad z = \exp{w}\, \}

で定めることと同じです.

 

ちなみにどうでもいいことですが,僕の\logの定義だと

\log{0} = \emptyset = 0

になるんです.